ブルーライト漢詩10


   憶芸能家小沢昭一氏
     芸能家小沢昭一氏をおも

     巷衢技芸独研尋
     巷衢こうく(ちまた)の技芸独り
     研尋す(究め尋ねる)
     更巧弁才兼口琴
     更に巧みなリ弁才(弁論の才能)
     口琴(ハーモニカ)
     一弄滑稽教衆笑
     一たび弄すれば滑稽衆(人々)
     をして笑わしむ
     三吹清韻促愁深
     三たび吹けば清韻(爽やかな音色)
     愁いを促すこと深し

解説

神奈川新聞平成25年7月7日日曜日版から転載

≪漢詩の作り方⑦≫

 漢詩のルールの一つに、詩の 中に同じ字を使わない(同字不 出)というのがある。七言絶句 は28字、ここで同字を使うのは もったいない、ということだ。 上掲詩でいえば、ハーモニカを 吹くのだから「一吹」「三吹」 でもいいはずだが、ルールに従 い「弄」と「吹」にした。しか し同字不出は割とゆるやかで、 王維の「鹿柴」では「空山不見 人/但聞人語響」。李白の有名 な「山中にて幽人と対酌」は「両 人対酌山花開/一杯一杯復一 杯」、実に豪快だ。ルールを破 っても、その理由が納得できれ ば許されるようだ。

作者紹介

岡崎満義
おかざき・みつよし
1936年鳥取県生まれ。京都大文学部卒。 60年文芸春秋入社。
「ナンバー」「文芸春秋」編集長など。 99年退職。全日本漢詩連盟常務理事、 神奈川県漢詩連盟会長。
茅ヶ崎市在住。
shinkanren@.jp

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